東京地方裁判所 昭和36年(ワ)3538号 判決 1963年9月21日
判 決
東京都大田区山王一丁目二千五百九十番地
原告
安藤弥一
東京都港区芝田町四丁目一番地
原告
アンドカード工業株式会社
右代表者代表取締役
小宮山利三
右原告両名ら訴訟代理人弁護士
梶谷丈夫
中根宏
板井一瓏
大阪市東区平野町二丁目十七番地
被告
株式会社伊藤喜商店
右代表者代表取締役
田島光吉
右訴訟代理人弁護士
岡本拓
太田稔
右当事者間の昭和三六年(ワ)第三、五三八号実用新案権侵害行為禁止等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
一 被告は、別紙第三目録および第四目録記載の各物件を、業として、製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。
二 被告は、その本店、支店、営業所および工場において所有する前項掲記の各物件を廃棄せよ。
三 被告は、原告アンドカード工業株式会社に対し、金四百五万七千六百五十円および、これに対する昭和三十六年十二月一日から、支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求は、棄却する。
五 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
六 この判決は、第三項に限り、原告アンドカード工業株式会社において被告に対し金百三十万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
(請求の趣旨)
一 原告訴訟代理人は、「一 被告は、別紙第二目録から第四目録記載の各物件を業として、製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。
二 被告は、その本店、支店、営業所および工場において所有する前項掲載の各物件を廃棄せよ。
三 被告は、原告アンドカード工業株式会社に対し、金四百九万七千六百五十円、および、これに対する昭和三十六年十二月一日から、支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、原告アンドカード工業株式会社に対し、別紙第五目録記載の謝罪広告を一回掲載せよ。
五 訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決、ならびに、第三項につき仮執行の宣言を求めた。
(被告の求めた裁判)
二 被告訴訟代理人は、「一 原告らの請求は、棄却する。二 訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求めた。
第二 当事者の主張
(請求の原因)
原告ら訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。
一 原告らの実用新案権と実施権
(一) 原告安藤弥一(以下「原告安藤」という。)は、次の実用新案権の権利者である。
出願 昭和二十六年四月九日、
出願公告 昭和二十八年六月十八日、
登録同年九月二十一日(登録第四〇六、〇七九号)、
名称「カード容器における書類袋」、
(二) 原告アンドカード工業株式会社(以下「原告会社」という。)は、昭和三十六年九月十九日付契約により、原告安藤から、本件実用新案権につき、期間の定なく、範囲は全部、実施料は無償とする専用実施権の設定を受け、昭和三十七年二月十二日その登録手続を経た。
(三) 原告会社は、右専用実施権を取得するまで、本件実用新案権について、実権産を有していた。すなわち、本件実用新案は、原告安藤が、原告会社の技術および製造担当の重役として、昭和二十六年初期から研究に着手し、その完成とともに出願し登録となつた同人の職務に関する考案で、その性質上、原告会社の主たる業務である事務用機器の製造に関し、かつ、その考案するに至つた行為が技術および製造担当の取締役として原告会社に対する勤務に関するものであり、したがつて、原告会社は、旧実用新案法(大正十年法律第九十七号。以下「旧法」という。)第二十六条、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第十四条第二項の各規定により、本件実用新案権について法定実施権者となつたものであり、実用新案法施行法第十三条により、昭和三十五年四月一日から前記のとおり専用実施権者となるまでは、通常実施権者であつた。
二 本件実用新案の登録請求の範囲本件実用新案の願書に添附された明細書の登録請求の範囲の記載は、別紙第一目録のとおりである。
三 本件実用新案の要部等
(一) 本件実用新案の要部は、
(1) 周辺を適宜接着したカード容器における書類袋であること。しかして、周辺の適宜接着とは、四周全部が接着されていることではなく、また、接着の方法、および、袋状とする手段に限定はない。
(2) この書類袋の物入口は、袋用紙の一半片に傾斜した開口を形成することによつてできており、それを文書等の挿入口とされていること。しかして、挿入口は、孔であることは必要でなく、袋の口を形成するものすべてを含み、その間口の長さ、および開口の傾斜角度に制限がない。
(3) 袋用紙の他半片には、適宜の表示カード差込孔があること。しかして、表示カード差込孔の大きさおよび数には制限がない、
という構造にある。
(二) 本件実用新案は、右構造によつて、
(1) 伝票、文書の挿入が容易であること。すなわち、これを分説すれば、
(イ) 挿入作動が角と辺との接触によつて開始されるため、従来のものにおけるように辺と辺との接触によつて開始される場合と比較して、挿入が容易、迅速、かつ、確実となること。
(ロ) 開口の傾斜角度に制限がないため、挿入方向は、必要に応じ縦および横の二方向の最大限に及ぶこと。
(ハ) 挿入が一挙動で可能であること。
(2) 伝票、文書等の索出が容易であること。すなわち、挿入伝票等の右上隅部分が必ず袋外部に露出するので、そのままの状態で内容物の索出が容易にできること。
(3) 表示カードと伝票、文書等との関連性をより強度に保持しうるうえ、多数カード類の分類が可能であること。
(4) 間口の長さに限定がないから、必要に応じ、これを大にして、台紙一杯の伝票、文書等を挿入できること。
という作用効果をあげることを、その目的とする。
四 被告の各製品
被告の製造販売にかかる製品は、別紙第二目録から第四目録記載のとおりである。
五 被告の各製品の特徴および本件実用新案との対比
(一) 第二目録記載の製品(以下「第二物件」という。)
(1) 特徴
第二物件は、
(イ) 周辺を適宜接着したカード容器における書類袋であること、
(ロ) この書類袋の物入口は、袋用紙の一半片に側斜した開口を形成することによつてできており、伝票、文書等の挿入口とされていること、
(ハ) 書類袋の他半片に適宜のカード差込孔があること、
という構造上の特徴を有し、この構造によつて、
(ニ) 伝票、文書等を開口より容易に挿入しうること。
(ホ) 挿入した伝票等の右上隅が袋から露出するので、その索出が容易であること、
(ヘ) 表示カードと伝票、文書等との関連性を保持しうること、
という作用効果をあげうることを、その特徴とする。
(2) 本件実用新案との対比
第二物件と本件実用新案とを対比するに、両者とも、その考案の対象が、カード容器に装着して使用するカード整理用の書類袋であり、第二物件は、本件実用新案の要部である前記三の(一)の(1)から(3)の構造をすべてそなえており、作用効果においても、本件実用新案の目的とする前記三の(二)の(1)から(3)の作用効果をあげうるものであるから、第二物件は、本件実用新案の技術的範囲に属する。
(二) 第三目録記載の製品、(以下「第三物件」という。)
(1) 特徴
第三物件は、
(イ) 上、左および下の三辺を接着したカード容器における書類袋であること。
(ロ) この書類袋の物入口は、右側上部内方から下部外端にかけて傾斜した開口を形成することによつてできており、伝票、文書等の挿入口とされていること、
(ハ) 書類袋の他半片に適宜のカード差込孔があること、
という構造上の特徴を有し、この構造によつて、
(ニ) 伝票、文書等を開口より容易に挿入しうること、
(ホ) 挿入した伝票等の右上隅部が袋から露出するので、その索出が容易であること、
(ヘ) 表示カードと伝票、文書等との関連性を保持しうること、
という作用効果をあげうることを、その特徴とする。
(2) 本件実用新案との対比
第三物件と本件実用新案とを対比するに、両者とも、その考案の対象が、カード容器に装着して使用するカード整理用書類袋であり、第三物件は、本件実用新案の要部である前記三の(一)の(1)から(3)の構造をすべてそなえており、作用効果においても、本件実用新案の目的とする前記三の(二)の(1)から(4)の作用効果をあげうるものであるから、第三物件は、本件実用新案の技術的範囲に属する。仮に、本件、実用新案において、四周全部が接着されている構造が、その要部を構成しているとしても、この点に関する第三物件の構造は、本件実用新案から容易に推考しうる単なる設計変更にすぎないから、第三物件は、本件実用新案の技術的範囲に属する。
(三) 第四目録記載の製品(以下「第四物件」という。)
(1) 特徴
第四物件は書類袋の他半片に適宜のカード差込孔がなく、住民台帳の表示カード欄が直接印制されている点以外は、構造上、第三物件と全く同一の特徴を有し、右構造により、表示カードの代りに住民台帳欄をもつて、伝票文書等との関連性を持たせた点以外は、第三物件と全く同一の作用効果をあげうることを、その特徴とする。
(2) 本件実用新案との対比
第四物件における住民台帳欄の印制という構成は、一枚の台紙に事項欄を印制するという公知の方法と、本件実用新案の他半片にカード差込孔を設け、カードを差し込んで使用する構造とから、当業者のきわめて容易に推考しうるところであり、本件実用新案における右構造の単なる設計的変更にすぎず、その効果とするところも、本件実用新案におけるカードと開口に挿入された伝票文書との関連性を持たせることと同一である。しかして、第四物件は、構造上および作用効果上の点において、第三物件と全く同一であり、第三物件が本件実用新案の技術的範囲に属することは前記のとおりであるから第四物件もまた、本件実用新案の技術的範囲に属する。
六 被告の製造販売等
(一) 被告は、第二物件および第三物件を製造し、これを、ビジブルレコーダー(一覧式カード容器)一台について、一引出しに五十六枚、十引出し合計五百六十枚ずつ装着したうえ、右ビジブルレコーダーを、「スーパーアイデツクス」の商標のもとに、昭和三十五年三月以降、別表のとおり、合計三百八十一台販売し、また、第四物件を製造し、これを同年三月頃、香川県志度町役場に四千枚以上販売した。
(二) 被告は、現在も、第二物件、第三物件を製造し、これを装着したビジブルレコーダーを販売しており、今後も右製造、販売を続ける虞がある。
(三) 被告は、現在、第二物件第三物件および第四件物を、その本店、支店、営業所および工場において所持所有している。
七 差止請求
前項(一)、(二)記載の被告の行為は、原告安藤の本件実用新案権および原告会社の前記専用実施権を侵害するものであり、同(三)の各物件は、右侵害行為を組成したものであるから、請求の趣旨第一、第二項のとおり、その差止および廃棄を求める。
八 損害賠償請求
(一) 原因
(1) 被告は、第二物件、第三物件および第四物件が本件実用新案の技術的範囲に属すること、および、その製造販売が本件実用新案権の侵害となり、したがつて、原告会社の前記実施権を侵害することを知つていたか、または、本件実用新案の公報その他により容易に知りうべかりし状態にありながら、不注意でこれを知らずに、前記六の(一)のとおり、その製造販売をした。
(2) 被告の右製造販売は、次のような情勢のもとで行われたのである。すなわち、米沢市役所が、昭和三十一年から昭和三十二年にかけて、原告会社の製造にかかる本件実用新案の実施品を装着したビジブルレコーダーを採用購入することにより、住民関係の各種行政事務の統合管理について、事務能率向上のための抜本的改善を実行したところ、自治庁が、同市役所をモデル市役所に指定し、各市町村に、米沢市役所にならつて行政事務処理の方法を改善するように勧奨したため、全国の各市町村において、本件実用新案の実施品を装着したビジブルレコーダーを採用して、住民関係の行政事務処理方法を改善しようとする情勢となつたが、被告は、このような情勢のもとで、とくに、その社員を米沢市役所に派遣して、同市役所の採用した原告会社の権利品を装着したビジブルレコーダーを充分視察調査したうえ、第二物件、第三物権および第四物件を製造販売したのである。
(3) 右のような事情であるため、被告の「スーパーアイデツクス」を購入した前記市役所、町役場等においても、もしこれに第二物件または第三物件が装着されてなければ、行政事務処理改善の目的を達成できないのであるから、右「スーパーアイデツクス」を購入することはなく、その目的達成のために、必ず、権利品を装着した原告会社のビジブルレコーダーを購入した筈である。したがつて、原告会社は、被告の前記製造販売により、その販売量に相当する数量のビジブルレコーダーの販売を妨害されたことになり、その販売によつて得べかりし利益を失つたのである。また、第四物件は、行政事務処理の能率向上を目的とする志度町役場の要望により、カードキヤビネツトに装入使用するために販売されたものであり、被告が販売しなければ、原告会社から本件実用新案の実施品が購入された筈のものであるから、被告の右販売により原告会社は同数量の本件実用新案の実施品の販売を妨害され、その販売により得べかりし利益を失つたものであるが、右利益の喪失による原告会社の損害については、被告においてこれを予見しうべきものであつた。
(二) 損害額
原告会社の製造販売するビジブルレコーダー一台の販売価格は金三万五千五百円で、その純利益は販売価格の三十パーセントにあたる金一万六百五十円であるから、原告会社は、右三百八十一台分として金四百五万七千六百五十円の損害を蒙り、また、本件実用新案の実施品一枚の販売価格は金三十円で、その純利益は一枚当り金十円であるから、前記四千枚分として金四万円の損害を蒙つたので、民法第七百九条の規定に基く賠償として、右合計金四百九万七千六百五十円、これに対する不法行為の後である昭和三十六年十二月一日から、支払いずみに至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
九 謝罪広告請求
被告の徒業員は、その製品の売り込みにあたり、第二物件および第三物件装着のビジブルレコーダーの購入先である各市町村役場に対して、それぞれ、前記購入日頃、原告会社の製造販売するカード整理用袋式台紙およびこれを装着したビジブルレコーダーは粗悪で、ことに、その袋式台紙は小型で使用に堪えないなどと原告会社を誹謗し、もつて、著しく原告会社の名誉を傷つけた。しかして、被告の従業員のした右各行為は、被告の被用者である右従業員が被告の事業の執行としたものであるから、原告会社は、被告会社に対し、民法第七百十五条および第七百二十三条の規定に基き、請求の趣旨第四項のとおりの謝罪広告を求める。(答弁)
被告訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。
一 請求原因第一項の事実のうち、(一)および(三)の事実は認める。
二 同第二項の事実は認める。
三 同第三項の事実については、
(一)(1) 同項の(一)の(1)のうち、周辺の適宜接着とは四辺全部が接着されていることではないとの点は否認し、その余は認める。四辺全部が接着されていることが、本件実用新案の要件の一つである。
(2) 同項の(一)の(2)のうち、挿入口は孔であることは要件でないとの点、および、間口の長さに制度がないとの点は否認し、その余は認める。挿入口は、一半片のみに形成されている孔であることが要件であり、したがつて、間口の長さにも制限がある。このことは、次の各公知例からも明らかである。すなわち、
昭和五年実用新案出願公告第二、九六五号「手帖表紙に対し脱着自在に装置せしセルロイド製紙片挾持袋」の公報
昭和八年同第二、六九一号「名刺入兼用手帖サツク」の公報同年同第一八、九九一号「紙挾み」の公報
昭和十一年同第九、九三〇号「状挿兼用カレンダー」の公報
(3) 同項の(一)の(3)の点は認める。
(二) 同項の(二)のうち、(1)の(ロ)および(4)の点は否認し、その余は認める。
四 同第四項の事実は認める。
五 同第五項の事実については、
(一) 同項の(一)の点は認める。
(二) 同項の(二)のうち、
(1) 同項の(二)の(1)の点は認める。
(2) 同項の(二)の(2)のうち、本件実用新案も第三物件とともにカード容器に装着して使用するカード整理用書類袋であることは認めるが、その余は争う。
(い) 本件実用新案と第三物件とは、構造上、次のとおりの相違がある。
(イ) 前者が四周全部を接着しているのに対し、後者は三辺を接着しただけであること。
(ロ) 前者は開口を一半片に設けているのに対し、後者は両半片によつて形成していること。
(ろ) 右構造の相違により、両者は次のとおり作用効果が異る。
(イ) 前者は、後者に比して開口に挿入する文書等の露出部が多く、挿入する文書等自体は小さいこと。
(ロ) 前者は、開口が一半片にのみ存する関係上、挿入する文書等が開口に没する程度の大きさしかない場合は取り出すのが困難であるか、後者は開口袋用紙の横一辺のすべてであるから右場合でも取り出すのが容易であること。
右(い)(ろ)のとおり相違があるから、第三物件は、本件実用新案の技術的範囲に属しない。
(三) 同項の(三)のうち、
(1) 同項の(三)の(1)の点は認める。
(2) 同項の(三)の(2)に関する被告の主張は、同項の(二)の(2)に対するものと同じである。
六 同第六項の事実については、
(一) 同項の(一)の事実は認める。
(二) 同項の(二)のうち、第二物件に関する部分は否認するが、その余は認める。
(三) 同項の(三)のうち、第二物件に関する部分は否認するが、その余の事実は認める。第二物件の在庫品は、すでに廃棄ずみである。
七 同七の請求は、その理由がない。
八 同第八項については、
(一) 同項の(一)のうち
(1) 同項の(一)の(1)の事実は否認する。
被告は、第二物件の製造、販売当時、本件実用新案権の存在を知らなかつた。当時被告会社にあつた原告会社のビジブルレコーダーのカタログ(乙第四号証)には本件実用新案権の記載がなく、被告会社担当の調査によつても、これを発見しえなかつたので、被告は、その存在を知らなかつたし、知らなかつたことについて過失はない。昭和三十五年十二月中旬、原告安藤からの警告により本件実用新案権の存在を知つてからは、第二物件の製造、販売はしておらず、それ以後製造、販売している第三物件および第四物件は、右権利に触れないものである。
(2) 同項の(二)の(2)のうち、被告会社東京支店の販売促進課長木村圭三が昭和三十四年二月頃、米沢市役所で使用されている原告会社の事務用機器の見学に行つたことは認めるが、その余の事実は知らない。
(3) 同項の(三)の(3)の事実は否認する。
なお、第二物件と、第三物件および第四物件とは、機能上の優劣をつけ難いものであるから、被告が第二物件を使用できなくても、本件実用新案権に触れない第三物件および第四物件を装着することによつて、「スーパーアイデツクス」の販売には何ら消長はないのであるから、原告会社のビジブルレコーダー販売には全く影響はなかつた筈である。
(二) 同項の(二)のうち、原告会社におけるビジブルレコーダー一台の販売価格は知らない。その余の事実は否認する。本件実用新案の実施品である袋式紙一枚の粗利益は金三円、純利益は、金一円程度である。したがつて、仮に、被告の製造、販売によつて、原告会社の製品がそれだけ売れなかつたとしても、三百八十一台のビジブルレコーダーに各五百六十枚ずつ装着される分として金二十一万三千三百六十円、第四物件に代る分として金四千円の損害を与えたにすぎない。
九 同第九項の事実中、被告の従業員が原告会社の製品を誹謗したことは否認する。
第三 証拠関係≪省略≫
理由
(原告らの実用新案権および実施権について)
一 原告安藤が、昭和二十六年四月九日出願、昭和二十八年六月十八日出願公告、同年九月二十一日登録にかかる本件実用新案権を有すること、および、原告会社が、原告ら主張の理由により、本件実用新案権につき、旧法第二十六条、旧特許法第十四条第二項の各規定に基く法定実施権を有していたものであり、現行実用新案法施行後は、同法施行法第十三条により、通常実施権者であつたことについては、本件当事者間に争いがなく、原告会社が、原告ら主張の経過により、昭和三十七年二月十二日、本件実用新案権について、期間の定のない、範囲は全部、実施料は無償とする専用実施権の設定の登録を経て、その権利を取得したことについては、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなされるべきものである。
(本件実用新案の登録請求の範囲について)
二 本件実用新案の願書に添附した明細書の登録請求の範囲の記載が別紙第一目録記載のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。
(本件実用新案の要部等について)
三 当事者間に争いのない前記登録請求の範囲の記載、および、いずれもその成立に争いのない甲第一、第二号証の各二に、鑑定人(省略)の鑑定の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち、
(一) 本件実用新案は、カード容器における書類袋に関するものであり、
(1) 袋用紙の一半片に文書等を横方向から挿入しうるように挿入口が設けられている、
(2) 右挿入口は、傾斜した開口に形成されている、
(3) 袋用紙の他の半片には、適宜の表示カード差込孔が設けられている、
(4) 右両片は重ね合わされ、周辺を適宜接着されている、
という構造の結合をその要部としているものであること。
(二) 本件実用新案は、右構造により、
(1) 文書等の挿入に当つて、その左下隅を斜上方より開口内に突き入れたのち奥へ入れられるので、挿入がきわめて容易である、
(2) 挿入した文書等の右上隅部分が傾斜した開口から露出して見えるので、文書等の索出がきわめて容易である、
(3) 挿入口に挿入された文書等と差込孔に挿入された表示カードと関連性を持たせることにより、その記入索引が容易である、
という作用効果をあげうること。
(三) 前記(一)の(4)における周辺を「適宜接着」するという表現は、接着手段において、綴着または糊着による等、適宜であるばかりでなく、袋を形成する程度に周辺の適宜の箇所を接着するをもつて足ることをも意味していること。
(四) 前記(一)の(1)、(3)、(4)の構造の結合は、原告安藤の有する実用新案登録第三九七七五二号の要部となつている点であり、前記(二)の(3)の作用効果は、右構造の結合により生ずるものであり、同(二)の(1)(2)の効果は、前記(一)の(2)の構造によるものであること。
とくに、右(三)の点について、これを詳述すれば、「適宜接着」という表現については、前記甲第一号証の二の記載中に「9は両半片の周辺を接着した綴着金具で、糊着してもよい。」とあること、および、同号証の二の図面(したがつて、明細書添附の図面)によれば、両半片は、そのいずれの辺も、少くとも、一か所は綴着されていることをみれば、単に接着の手段に限定がないことのみを意味するものととれないではないが、右記載は、図面の説明として記載されているものであることが、その記載上明らかであるところ、また、本件実用新案においては、明細書の記載自体により、その添付図面は、登録請求の範囲等明細書の記載の理解を容易にするためのものにすぎないものであり、登録請求の範囲に「図面に示すように」とあることから、ただちに、右図面に示された細部の構造までを本件実用新案の要部を構成する構造である、とすることはできないものと認められる点を考慮すれば、前記記載部分および図面の表示のみをもつて、「適宜接着」の意味を前記のように解することは相当でなく、同号証の二の記載中に「6は裏半片に切込んだ舌片7を形成する切込線で、8は表半片1に切込んだ切込線8に舌片7を嵌挿することによよつて両半片1、2の一辺を接着することが出来る……」との部分があること、および、同号証の二の記載によつて明らかなように、前記接着は両半片が袋を形成することを目的とするものであることからみれば、前記「適宜接着」とは、前記接着手段に関する記載および図面の表示にかかわらず、接着手段のみでなく、接着の箇所においても周辺の適宜の箇所を接着するをもつて足ることを意味するものと解せざるをえない。なお、被告は文書等の挿入口が袋用紙の一半片に設けられた孔であることを前提として、右「適宜接着」を周辺全部の接着を意味する旨主張するようであるが、仮に、文書等の挿入口が袋用紙の一半片に設けられた孔であることが本件実用新案の要部を構成する構造であるとしても、このことから、ただちに、両半片の四周すべてを接着する必要が生ずるという理由はなく、この場合においても、両半片が袋を構成する程度の箇所において接着されることをもつて十分であることは同様であるから、右主張は、理由のないものというべきである。
しかして、乙第八号証の一、二および同第九号証中右認定に反する部分は、当裁判所と異る見解を前提とするものであり採用し難く、他に右判断を覆すに足る証拠はない。
(被告の各製品について)
四 被告の製品が、別紙第二目録、第三目録および第四目録記載のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。
(被告の各製品と本件実用新案との比較)
五 前記甲第一、第二号証の各二、本件実用新案の要部等に関し前記三において認定した事実、当事者間に争いのない前記被告の各製品の構造、鑑定人(省略)の鑑定の結果および弁論の全趣旨を総合すれば、次のことが認められる。すなわち、
(一) 第二物件について。
第二物件は、カード容器における書類袋であり、本件実用新案の要部を構成するすべての構造をそなえ、本件実用新案と同一の作用効果をあげうるものであること。
(二) 第三物件について。
(1) 第三物件は、カード容器における書類袋であり、
(い) 袋用紙の一半片の一側縁部に文書等を横方向から挿入するための挿入口を形成すべく、その半片の右側上部内方から下段外端へ斜に截除してある、
(ろ) 袋用紙の一半片および他半片には、それぞれ適宜の表示カード差込孔を設けてある、
(は) 右両半片を中央折目で届折して重ね合わせ、その上下および左側縁部を接着して袋を形成してある、
という構造を有すること。
(2) 第三物件は、右構造によつて、本件実用新案の有する前記三の(二)の作用効果をあげうること。
(3) 第三物件と本件実用新案とを対比するに、両者はいずれもカード容器における書類袋に関するものであるところ、
(い) 前者における前記(1)の(ろ)の構造は、後者における前記三の(一)の(3)の構造に比し、表示カード差込口が、他半片だけでなく、一半片の方にも設けられている点が相違しているが、他の部分は、同一であり、右相違部分は、単なる附加的構造とみられるものであり、
(ろ) 前者における前記(1)の(は)の構造は、後者における前記三の(一)の(4)の構造に、同(三)の意味において含まれるものであり、
(は) 前者における前記(1)の(い)の構造は、袋用紙の一半片の右端を斜に切除することによつて作られた斜縁が挿入口を形成しており、これに文書等を横方向から挿入しうる点、右斜縁によつて形成されている挿入口があることにより、後者における前記三の(二)の(1)および(2)の作用効果をあげうる点、ならびに、前掲甲第一号証の二(本件実用新案の公報)中に、後者における文書等の挿入口の設置箇所および構造について格別限定がない(図面が基準にならないことは前示のとおり。)ことおよび、傾斜した開口の作用効果として右三の(二)の(1)、(2)のとおり記載されている点からみて、「袋用紙の一半片に傾斜せる開口」を形成しているものといいうるのであり、前記三の(一)の(1)および(2)の構造に含まれるとみるべきであり、
(に) 前者は、後者の有する作用効果のすべてをあげうるものであること。
(三) 第四物件について。
(1) 第四物件は、カード容器における書類袋であり、
(い) 袋用紙の一半片の一側縁部に文書等を横方向から挿入するための挿入口を形成すべく、その半片の右側上部内方から下段外端へ斜に截除してある、
(ろ) 袋用紙の右半片に適宜の表示カード差込孔を設け、他の半片の表面に文字記入用区画欄を印制してある
(は) 右両半片を中央折目で届折して重ね合わせ、その上下および左側縁部を接着して袋を形成してある
という構造を有すること。
(2) 第四物件は、右構造によつて、本件実用新案の有する前記三の(二)の作用効果をあげうること。
(3) 第四物件と本件実用新案とを対比するに、両者は、いずれもカード容器における書類袋に関するものであるところ、
(い) 前者における前記(1)の(い)の構造は、前記(二)の(3)の(は)に記載したとおり、後者における前記三の(一)の(い)および(ろ)の構造に含まれるとみるべきであり、
(ろ) 前者における前記(1)の(は)の構造は、後者における前記三の(一)の(4)の構造に含まれるものであり、
(は) 前者における前記(1)の(ろ)の構造についてみれば、後者における前記三の(一)の(3)の構造においては、袋用紙の他半片に表示カード差込孔を設けているのに対し、前者における右構造によれば、他半片には文字記入欄を直接印制しているものであり、表示カード差込孔は文書挿入口を形成している半片に設けられている点に相違があるけれども、表示カード差込孔を他半片に設ける代りに一半片に設けることは、当業者が、適宜必要に応じて、容易にできるものであり、右三の(一)の(3)の構造を附加したことによる作用効果と考えられる前記三の(二)の(3)の作用効果をあげうるにおいても、表示カード差込孔がいずれの半片にあるかということは、格別問題とならないとみられる点、他半片に印制された文字記入欄が単なる附加的構造と考えられる点、および、右三の(一)の(3)の構造が前判示のとおり、本件実用新案の前提となつている実用新案登録第三九七七五二号の要部を構成する構造である点からみて、前者における前記(1)の(ろ)の構造は、後者における前記三の(二)の(3)の構造と均等のものとみるべきであり、
(に) 前者は、後者の有する作用効果のすべてをあげうるものであること、
が認められ、乙第八号証の一、二および同第九号証中右に反する部分は、前掲各資料と対して、にわかに採用し難く、他にこれを左右すべき証拠はない。
しかして、以上認定したところによれば、第二物件、第三物件および第四物件は、いずれも本件実用新案の技術的範囲に属するものといわなければならない。
(被告の製造販売等について)
六 被告が第二物件および第三物件を製造し、これをビジブルレコーダー一台につき、一引出しに五十六枚十引出合計五百六十枚ずつ装着したうえ、右ビジブルレコーダーを、「スーパーアイデツクス」という商標を附して、昭和三十五年三月以降、別表のとおり、合計三百八十一台販売し、また、第四物件を製造し、これを昭和三十五年三月頃、香川県志度町役場に少くとも四千枚販売したこと、被告が、現在も第三物件および第四物件を製造し、これを装着したビジブルレコーダーを販売しており、今後も右製造、販売を続ける等請求の趣旨第一項記載の行為をしようとしていること、ならびに、被告が、現在、第三物件および第四物件を、その本店、支店、営業所および工場において所持所有していることは、いずれも本件当事者間に争いがない。
しかしながら、被告が、第二物件につき、現在もなおこれを製造、販売していること、もしくは、今後製造、販売する虞があること、または、現在右物件を所有していることについては、これを認めるに足る証拠はなく、かえつて、(証拠―省略)によれば、被告は、昭和三十五年十二月に、原告安藤から右物件が本件実用新案権に抵触する旨の警告を受け、調査の結果、右事実を認めたため、原告安藤に謝罪するとともに、ただちに、右物件の製造、販売を取りやめ、在庫品を廃棄したものであり、今後再び右物件の製造、販売する意図のないことを推認できる。もつとも、成立に争のない甲第五、第六号証によれば、被告は、右のように原告安藤に謝罪したのちも、右物件を装着したビジブルレコーダーの広告を雑誌に掲載していたことが認められるが、(証拠―省略)によれば、右は広告社の過失によるものであることから、前掲第五、第六号証をもつて、前記事実を認定する資料とすることはできない。
(差止請求について)
七 第三物件および第四物件が本件実用新案の技術的範囲に属することは前判示のとおりであるから、右各物件に関する前項記載の被告行為は、原告安藤の本件実用新案および原告会社の前記専用実施権の侵害となるものというべきであり、また、右各物件は、これらの侵害行為を組成したものということができるから、原告らの差止および廃棄請求のうち、右各物件に関する部分は、理由があるけれども、第二物件に関しては、前記のように、現在および将来における侵害行為を肯認することができないから、右物件に関する部分は、失当といわざるをえない。
(損害賠償の請求について)
八 (証拠―省略)ならびに弁論の全趣旨によれば、原告会社は、昭和十八年年五月に設立されて以来、原告安藤の発明、考案にかかる事務用機器の特許権、実用新案権を独占的に実施して、その製造、販売等をして来たものであり、原告安藤は、昭和七年以来、袋式台紙を装着したビジブルレコーダーを製造、販売し、原告会社設立後は、その代表取締役として経営一般に携るかたわら、原告会社の研究機関として設置された研究所の所長に就任する等して、事務用機器に関する発明、考案をして来たものであり前記のように原告会社に独占的に実施させて来た特許、実用新案は、事務用機器一般に関するもの百七十五件、そのうちビジブルレコーダーに関するものだけでも約四十件に達するものであるが、同人は、早くから、右のほか、会社、官庁等の事務改善のためのコンサルタントとして活躍し、前記事務用機器を使用する新らしい経営方式の開発に努めて来、すでに、業界その他において、事務用機器のメーカーである原告会社とともに新らしい事務用機器の考案者、経営方式の開発者として指導的立場にあるものとみられていたこと、昭和三十一年頃、原告安藤は、その友人である当時の米沢市長から、米沢市役所における行政事務の改善について相談を受け、研究の末、本件実用新案に基くカード整理用袋式台紙を装着したビジブルレコーダーを使用することにより住民関係の各種行政事務を各世帯別に統合管理する方式の改善案を立案したところ、これが採用され、同市においては、昭和三十二年七月頃、原告会社より右袋式台紙を装着したビジブルレコーダーを購入したうえ、右方式による行政事務の改善を実行したが、同年十一月、全国行政事務監査委員会において、米沢市における右方式による行政事務改前の成果について報告されたため、右方式は広く有名となり、自治庁においても、米沢市役所を行政事務改善のモデル市役所として推奨するに至り、このため、全国の県、市、町、村においては、その議員、職員を米沢市役所に見学のために派遣したがそのうち実際に右方式による行政事務の統合管理を実施するところも多数に上つた結果、原告会社における前記ビジブルレコーダーの販売高は増加し、現在までに百五十余の市町村に販売するに至つていること、一方、被告は、事務器メーカーとして業界において原告会社に劣らない名声地位を有するものであるが、原告らが実施に関与した米沢市役所における行成事務改善の事実を知り、昭和三十四年二月頃、当時の被告東京支店販売促進課長木村圭三を同市役所に派遣してその見学をさせるなどして(同人が見学に行つたことについては、当事者間に争いがない。)研究に務めていたところ、その後尾道市役所から被告会社大阪支店に袋式台紙を装着したビジブルレコーダーの注文を受けるに及んで、第二物件を製造し、これを装着したビジブルレコーダー十九台を昭和三十五年三月、右市役所に販売し、その後、同年中に、別表のとおり、合計二百二十九台を二十二の市役所、町役場に販売したこと、被告は、右製造、販売に際して、ビジブルレコーダーやその台紙について多数の特許権、実用新案権の登録のあることを知りながら、たまたま手元にあつた原告会社のカタログに本件実用新案権の登録番号の記載がなかつたことから、本件実用新案権の存在に気づかず、第二物件の製造、販売が権利の侵害になることはないと即断して、それ以上の調査をせずに、右製造、販売を実行したが、同年十二月、原告安藤からの警告により本件実用新案権の存在を知るや、ただちに、第二物件の製造販売を取りやめて、これを第三物件および第四物件に切り換え、別表のとおり、第三物件を装着したビジブルレコーダーを合計百五十二台販売し、前記六のとおり、第四物件を少くとも四千枚販売したものであること、被告から右各ビジブルレコーダーを購入した市町村においては、原告会社の方式にならつて行政事務の統合管理を行つていること、ならびに、被告の販売したビジブルレコーダーと原告会社ビジブルレコーダーとは台紙の装着方式が異なるため、原告会社の袋式台紙を被告の右ビジブルレコーダーに装着することはできないこと、が認められるのであり、右各事実に前記当事者に争いのない原告安藤の本件実用新案取得の経過および原告会社の法定実施権(昭和三十五年四月一日以後は通常実施権)取得の事実、ならびに、前判示のとおり第二物件および第三物件がいずれも本件実用新案の技術的範囲に属することを合せ考えれば、もし、被告が前記第二物件または第三物件を装着したビジブルレコーダーを販売しなかつたならば、特段の事情の認むべきもののない本件においては、原告会社において、これと同数、同規格の本件実用新案の実施品を装着したビジブルレコーダーを販売することができ、それによる利益を得ることができたであろうところ、被告の右製造、販売により、右得べかりの利益を失い、同額の損害を受けたこと、被告の前記製造、販売は、原告会社の右実施権の侵害となるものであるが、被告において、さらに調査する等相当の注意をすれば、右侵害となることを知りうべきであつたこと、ならびに、被告において原告会社のこうむつた前記損害については、これを予見することが可能であつたことを認定しうるべく、右認定に反する証拠はない。
しかしながら、被告が販売した第四物件に関しては、前認定のように、原告会社のビジブルレコーダーと被告のそれとは装着方式が異るのであるから、第四物件の販売がなかつたとしても、ただちに同数量の原告会社の製品が販売されたであろうとすることはできないことはいうまでもなく、他にも同数の原告会社の製品が販売しえたであろことを認むべき資料は存在しない。
次に、(証拠―省略)によれば、被告の販売した前記ビジブルレコーダーと同規格の原告会社の権利の実施品を装着したビジブルレコーダー一台の価格が金三万五千五百円であり、その販売による利益が三十パーセントにあたる一万六百五十円であることが認められ、これを左右するに足る証拠はない。
以上の事実によれば、被告は、その過失により、前記各物件を装着したビジブルレコーダーを販売して、原告会社の前記実施権を侵害したものであり、右侵害により生じた損害を賠償すべき義務があるというべきところ、被告の予見しえた右損害の額は、原告会社の得べかりし一台につき金一万六百五十円、三百八十一台分合計金四百五万七千六百五十円の利益の喪失による同額の損害とみるべきであるから、損害賠償としては、右金員、および、これに対する不法行為の後である昭和三十六年十二月一日から、支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告会社の請求は理由があるものというべきである。
(謝罪広告の請求について)
九 被告会社の従業員が、原告会社の製品ないしは、これを装着したビジブルレコーダーにつき、粗悪であるとか小型で使用に堪えないなどして、原告会社を誹謗した、との点については、証人(省略)の証言中には、これにそう部分があるけれども、右証言部分は伝聞にすぎず、これのみをもつて、被告の従業員が、このような言動をしたことを認定し難く、他にこれを認めるに足る確証はない。
したがつて、右事実を前提とする原告会社の謝罪広告の請求は、その余の事項について判断をもちいるまでもなく、失当といわなければならない。
(むすび)
十 以上の説示のとおりであるから、原告らの本訴請求は、前示理由のある限度でこれを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条本文、第九十三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二十九部
裁判長裁判官 三 宅 正 雄
裁判官 竹 田 国 雄
第一目録(昭和三六年(ワ)第三、二七三号事件の第一目録と同じ)
第二目録
別紙図面に示すように、袋用紙の一半片(2)には伝票、文書等の挿入口を傾斜せる開口(5)に形成して設けると共に、他半片(1)には適宜の表示カード差込孔(4)又は(4)′(4)′を設けて、両半片(2)、(1)を重ね合せ、その周辺を適宜接着してなる構造のカード容器における書類袋、
裁判官楠賢二は、転補のため、署名押印できない。
裁判長裁判官 三 宅 正 雄
第三目録
別紙図面に示すように、袋用紙の一半片(2)には伝票、文書等の挿入口右側上部内から下部外端へ傾斜せる開口(5)に形成して設けると共に、他半片(1)には適宜の表示カード差込孔(4)、(4)′(4)′を設けて両片(2)(1)を重ね合せその上下及び左側縁部を接着してなる構造のカード容器における書類袋。
第四目録
別紙図面に示すように、袋用紙の一半片(2)には伝票、文書等の挿入口を右側上部内方から下部外端へ傾斜せる開口(5)に形成して設けると共に、他半片(1)には住民台帳の表示欄(4)を設けて、両半片(2)(1)を重ね合せ、その上下及び左側縁部を接着してなる構造のカード容器における書類袋。
第五目録
謝罪広告(省略)
別表(省略)